第一回自由訪問の結果は、訪問団の期待を大きく裏切るものとなってしまいました。
しかしその背景に何があるのかを把握しなくてはなりません。日ロ政府間の調整は十分になされていたのか否か、冷静な分析が必要です。単にロシア側の対応の悪さだけがクローズアップされ、両国民の感情が相互に悪化することは避けねばならないと考えますが、この点に関する道の認識を問いました。
平成29年北方領土対策特別委員会開催状況
開催年月日 平成29年6月7日(水)
質問者 北海道結志会 浅野貴博 委員
答弁者 北方領土対策本部 局長, 課長
北方四島交流事業等の実施について
5月15日から行われた第一回自由訪問について
北方四島交流事業等の実施について、ご報告いただいたことを踏まえ、また、この度参加させていただいた経験を踏まえて質疑させていただきます。
5年ぶりに国後島を訪問させていただきました。5年前と比較してどう変わっていたか。
まず舗装がかなり進んでいました。私たちが見ることができたのは、古釜布の一部でありますけれども、至る所に小さな子どもの遊ぶ遊具が置かれていました。聞くところによりますと、出生数が死亡者数を上回っており、どんどん若い人の人口が増えているということで、島の発展ぶりを目の当たりにすることができました。
改めて共同経済活動という枠組みの中で、日本が島に入り込んでいく、ロシア化を止める具体的な方策を早く練っていかなければならないと感じた次第であります。この度、このような貴重な機会をいただきました角谷委員長をはじめとした皆様に感謝を申し上げます。
私たちが出発する前に行われました5月15日からの第1回の自由訪問について伺います。
先ほど久保秋委員も質疑で触れられておりましたが、訪問する予定であった場所への訪問が最終的に現地で認められなかったという事態が生じておりました。
この事態に関して、5月22日、辻副知事が外務省を訪問し、同省欧州局の相木審議官に「北方四島への自由訪問の円滑かつ確実な実施について」とする申し入れを行っております。
このことを踏まえ、以下数点伺います。
1.質問:事態の経緯について
申し入れ文書の中には「瀬石、ニキシロ及び東沸へ訪問する予定であったものの、現地では、これまで立入りが認められていた東沸を含む、全ての地域への立入りができず、別な場所での慰霊を余儀なくされました」、「昨年12月の日露首脳会談においては、元島民の方々が自由に墓参・故郷訪問したいとの切実な思いを叶えることを首脳同士で話し合われ、(中略)これまで立ち入ることができなかった場所への訪問の実現に対する期待がこれまで以上膨らんでいたところであり」と書かれております。
今回訪問団の方々が訪問を予定していた地域への立ち入りについて、事前にロシア側から明示的に許可は出ていたのでしょうか。または、許可は出ていなくとも過去の例に照らして立ち入りが可能として訪問団は現地に向かったのか、今回の事態の経緯に関する外務省の説明はどのようなものであったのか伺います。
答弁:東田課長
第1回自由訪問に係る事態の経緯についてでありますが、今年、第1回目の自由訪問で予定されていた瀬石、ニキシロ及び東沸への立ち入りができなかったことについて外務省に確認しましたところ、訪問直前にロシア側から、瀬石、ニキシロ及び東沸の墓地の訪問については、ロシア側で調整が整っていない旨の報告があったと説明があったところであります。
また、訪問にあたって事前に了解が得られているかについて、外務省からは、外交上のやり取りについては公表を差し控えさせていただくという回答でありました。
2.質問:事態に対する道の認識について
今回の事業の中で、元島民の方々が故郷を訪問できない、また故郷にある先祖の方々の墓地をお参りできないという事態が生じたことは大変残念でありまして、今後確実に希望が叶えられる道を是非作っていただきたいと思います。
ただロシア側の立場に立つ訳ではありませんけれども、事前に明確な許可が出ていたものを当日になってロシア側がやはりだめだと翻意したというのならはなはだ遺憾であり、強く抗議をしたいところでありますが、立ち入りに関して許可または不許可のいずれも明確な回答がロシア側からなかった、もしくは立ち入りを打診して、最終的な許可が出ないまま、たぶん大丈夫であろうという見通しをもって現地に向かったものの、最終的に許可が出なかったという今回の事態が生じたということであれば、それは外務省による訪問団の方々への説明が不足していたということも指摘をしなくてはいけないのではないかと考えます。
しかし、今回の事態を受けた各新聞報道はロシア側の対応のひどさを指摘するという論調が目立ちました。確かにロシア側の誠意のなさというのを私も感じるところでありますが、このことをもって、道民、国民のロシアに対する不信感が昂じて、共同経済活動をはじめ北方領土問題の解決に向けた世論形成にマイナスの影響が出てしまうのではないかと懸念しておりますが、この点に対する道の認識をお伺いします。
答弁:由川局長
道の認識についてでございますが、本年4月の日露首脳会談におきまして特別墓参を6月中にも実施することで合意がなされるなど、元島民の方々の、これまで立ち入ることができなかった場所への訪問の実現への期待が大きく膨らんでいた中、第1回目の自由訪問が予定どおり行われなかったことは、残念極まりなく、大変遺憾と受け止めているところでございます。
訪問にあたっての事前の了解が得られているかについては定かではございませんが、いずれにせよ、今回のような事態は、日露双方の世論への影響も懸念されるところであり、今後の自由訪問や北方墓参をはじめ、四島との往来が円滑かつ確実に行われることが重要と考えているところでございます。
意見:
「第1回目の自由訪問が予定どおり行われなかったことは、残念極まりなく、大変遺憾」とおっしゃってましたが、この予定どおりというのが、果たして日露共有のものだったのかというところは、今後しっかり検証しなくてはいけないと思います。
4月末の首脳会談では期待が膨らんでいました。期待がもしかしたら確実に実施できるものだと、事前の打ち合わせがなされてなかった可能性もあります。今後期待値が高まって、その期待が裏切られた分、落胆も大きくなる。それが結果、北方領土問題に対する世論形成に負の影響が生じてしまうということがなきように、領対本部の皆様としても、外務省とその点をしっかり詰めていただいて、円滑かつ確実な実施が可能となるように協議を進めていただきたいと思います。
5月19日から行われた第一回四島交流訪問事業について
3.質問:共同経済活動の制度設計について
5月19日からの四島交流訪問事業に参加し、国後島に着いた初日に現地行政区の方々と懇談する機会をいただきました。その際、地区長代行のブタコフさんという方が、地元行政として、また個人としても、共同経済活動に対して何を期待するのかという質問に対しては、住宅、ホテル、道路、電気、農業を共同経済活動の分野として期待する旨の発言を、通訳を介して伺いました。
3月に行われた日露両政府の協議では、漁業の他に観光や医療、海面養殖、衛生面での環境整備などが優先事項とされておりましたけれども、ブタコフ地区長代行のおっしゃることが、現地の方々のニーズを正確に把握しているという前提で考えるならば、漁業に関してはこちら側からの追加的に質問したことに対して、漁業もそうですねと付け加えるような回答をされていたのが非常に印象的でした。
もしかしたら日露政府間で協議されているものが、現地の人々が求めるものとは異なるとまでは言いませんが、優先順位などで若干の違いがあると感じたところであります。共同経済活動は、これを通じて日露の信頼関係がより深まり、領土問題の解決、平和条約の締結につながることが期待されているものであります。
その具体的な制度設計については、日本側、特に北方領土隣接地域として行いたいものを投げかけることは勿論ではありますけれども、それぞれの島ごとの現地島民の方々のニーズを詳細に把握して、それを反映させることも重要であると考えます。
この点に関する道の認識と、今後の取り組みについて伺います。
答弁:東田課長
共同経済活動に関する現地ニーズについてでありますが、道では、共同経済活動の実施に向けては、四島側の社会的な課題の解決を通じ、日露双方に有益なものとなることが重要との考えのもと、これまでの政府要請におきまして北方四島交流訪問事業などを通じて把握した四島の社会的ニーズや課題を踏まえて、想定される取組を盛り込んだところであります。
道といたしましては、四島交流事業や、今月後半に予定されている国の現地調査の機会などを活用し、現地ニーズ等を詳細に把握するとともに、日露政府間の協議の進捗を十分注視しながら、隣接地域などと連携し、引き続き、必要な検討を行ってまいります。
意見:
是非とも現地ニーズのより詳細な、細やかな把握を道が率先して行っていただきたいと思います。
4.質問:今後のビザなし交流のあり方について
今回の訪問事業の内容は、国後島古釜布の各施設の視察をさせていただき、また地域住民と意見交換する機会をいただきました。
共同経済活動に関しては、もっと日本人と交流したい、ロシアは資源大国だけれども人的資源の面ではまだまだ遅れている、様々なソフトのサービス面など日本の素晴らしいところを学びたい、言葉の壁をまず崩すためにお互いの言語を勉強し合うような場面がほしいとか、様々な意見を聞くことができまして非常に意義深かったと思います。
しかし、意見交換会のテーマとして共同経済活動が設定されたのですが、訪問団の視察場所も今回のテーマに関連する施設という工夫があればなおさら良かったとも感じます。
また、共同経済活動では、今後、環境衛生や観光、漁業、様々なインフラ整備について可能性が模索されますので、ロシア側と協議が必要とは思いますが、それに関連したところをもっと視察できるような内容となれば良かったのではないかと考えております。
今年はまだ何回かの四島交流事業が行われますが、今後、共同経済活動のテーマに即した事業内容となるように、道としても実施団体と十分な協議を行っていただきたいと考えますが、道の認識を伺います。
答弁:由川局長
今後の北方四島交流事業のあり方についてでございますが、昨年の日露首脳会談を踏まえ、北方四島における共同経済活動への対応が進んでいる中、四島交流事業におきましても、こうした状況を踏まえた内容となるよう道と実施団体で協議、検討を進めてきたところであり、第1回目の訪問において共同経済活動をテーマといたしました意見交換会の実施に至ったものでございます。
また、それに応じました視察先につきましても、実施団体が四島側と協議を行っており、1回目には間に合いませんでしたけれども、2回目の訪問では、医療関係や水産関係などの施設を視察する予定となっているところでございます。