紆余曲折を経て、北方領土への日本側の官民現地調査団の派遣が実現されました。今回の調査で得られた成果を今後どのようにフィードバックし、実際の共同経済活動の実現に活かしていくのか、道の認識を問い ました。他には、日本語教師派遣をめぐるトラブルの実情、新たな隣接地域振興計画のあり方等についても質問しました。
平成29年北方領土対策特別委員会開催状況
開催年月日 平成29年7月6日(木)
質問者 北海道結志会 浅野貴博 委員
答弁者 北方領土対策本部 本部長、局長、課長
北方四島における現地調査の参加について
1.質問:調査の成果、課題について
当初想定された日程よりも若干のずれがありましたけれども、紆余曲折を経て官民現地調査団の派遣がこの度実現いたしました。今回の調査の目的は何であったのか、調査の結果、何を得ることができ、目的の達成を果たすことはできたのか、また新たに見えた課題はあるのか、さらには今後二回目以降の調査も必要と認識しているのかなど、今回の調査に関して道としてどのように総括しているのかまず伺います。
答弁:中野本部長
現地調査についてでありますが、今回の現地調査は、共同経済活動の実現に向けた検討を進めていくに当たり、北方四島の状況確認を行うことを目的に実施されたものでございます。
調査におきましては、関係施設の視察などを通じまして、観光や小売といった様々な分野の四島の現状や、港湾などのインフラ等に係る社会的ニーズを確認することができたところでありまして、今後、両国で共同経済活動に係る具体的なプロジェクトの検討、あるいは協議を進めていく上で、大変重要なステップになったものと受け止めているところでございます。
二回目以降の調査の有無につきましては、現時点では国からは明らかにされおりませんけれども、今回の調査結果を踏まえた今後の両国の協議を注視してまいりたいと考えているところでございます。
指摘:
二回目以降はあくまで両国政府の協議の結果進められていくことかと思いますが、仮に二回目以降の調査も必要となった場合、道としても一回目と同様、またそれ以上の関与をされることと思いますので、言うまでもありませんが、その辺の準備などは今のうちから想定をしていくことは必要でないかと指摘させていただきます。
調査結果のフィードバックについて
2.質問:フィードバックの方法及び国との役割分担について
今後政府においては、今回の調査で得られた成果を基に、実現可能性のある事業を絞り込む作業に入るものと思われますが、今回の調査で得られた成果や課題等について、道はどのように幅広く道民、国民に告知をして、フィードバックしていくのか、またその際に外務省はじめ国とはどのような役割分担を行うのか伺います。
答弁:山田課長
調査結果の周知についてでございますが、今回の国による調査結果につきましては、共同経済活動の実施に向けた優先して作業するプロジェクトの絞り込みなど、具体的な検討に活用されるものと受け止めているところでございます。
その公表のあり方につきましては、国において検討されるものと考えておりますが、現時点では、明らかにはされていないところでございまして、今回の現地調査で得られた現地事情などの取扱いにつきましては、国ともよく相談して、対応してまいりたいと考えております。
指摘:
今の時点でも本当に共同経済活動が領土問題の解決につながるのかどうか、ロシア側にいいとこ取りをされるだけで終わってしまうのではないかと懸念を抱いている方がまだいるのも事実だと思います。
道は各振興局や色々な場で署名活動や共同経済活動の意義の告知をされておりますので、今後こういう官民現地調査団が調査に行って、こういうことがわかった、こういう可能性が見えたといったことを、今行っている告知活動に加えるということも必要だと思いますのでご検討いただきたいと思います。
3.質問:共同経済活動に係るセミナーについて
今年度予算の中で、共同経済活動の意義などを周知するためのセミナーの開催費用などとして400万円を領対本部として計上していると承知します。 このことについては、何度も質問させていただきましたが、6月23日、私の代表格の質問の際に、知事からは、「道内複数個所でセミナーを開催するなど、さらなる取組を進める」とご答弁をいただきました。
これらセミナーの実施に向けて、具体的な準備はどこまで進んでいるのか、また今回の調査の成果や課題についても周知する考えでいるのか伺います。
答弁:山田課長
共同経済活動に係るセミナーについてでございますが、北方四島における共同経済活動は、日露双方の信頼関係の醸成に資するものでございまして、平和条約の締結、領土返還に向けた重要な一歩となり得るものと認識しているところでございます。
こうした共同経済活動の意義などを、隣接地域はもとより、北方領土から距離的に離れた地域で幅広く周知することは、北方領土問題への関心を一層高めていくことにつながるものと考えられますことから、道内複数箇所でのセミナーの具体的な開催地について、検討を行っているところでございます。
セミナーの内容につきましては、今回の調査結果での現地事情も織り交ぜながら、参加者にとって分かりやすいものとなるよう、日露両国間の協議の進展などを踏まえながら、検討してまいる考えです。
指摘:
北方領土から距離的に離れた地域で幅広く周知することの意義について、今ご答弁いただきました。根室側と真逆の日本海側である私の地元留萌は距離にして500キロほど離れておりますけれども、そうした地域こそ共同経済活動の意義を告知するセミナーを開催していくことは全道の世論を底上げするという意味で非常に有意義だと考えますので、ぜひとも前向きな検討をこれからも行っていただきたい。それに際して、例えば道内各地の商工会議所や商工会などに共同経済活動の意義、もしくは今後期待することについて何か告知する、書簡を出したり、アンケート調査を行ったりだとか、そうしたことも今後必要になるのではないかと思いますので、検討事項の一つに加えていただきたいと思います。
調査団員の選定等について
4.質問:調査団の視察について
調査団の皆さんは、国後島で17カ所、択捉島で28カ所、色丹島で19カ所視察を行っているとのことですが、調査団員の選定には道も事前に関与していたもの、リストを国に提出していたものと承知をしておりますが、調査団が視察を行った場所の選定には道としてどのような関与をしたのか、また全て当初の想定通り視察を行うことができたのかお伺いします。
答弁:山田課長
調査団の視察についてでございますが、今回の現地調査におきましては、調査団が数グループに分かれまして、水産加工施設やホテル、温泉、病院、空港、港湾など様々な分野の施設を視察したところでございます。
道は視察場所の選定に、直接は関与しておらず、当初の想定内容は承知しておりませんけれども、国によりますと、現地でもロシア側とやりとりを行い、出発前の想定を上回る64箇所の視察となったとのことでございます。
なお、道では、調査に先立ちまして、地元参加予定者の意向を伺い、水産加工施設やホテル、病院、空港、港湾など視察先の要望を国に伝えていたところでございまして、今回の調査においては、地元の要望が反映されたものと受け止めているところでございます。
5.質問:根室市長の参加について
当初の想定以上である64カ所の視察箇所となったこと、また道が先立って要望を伝えていたところが全て含まれていたことは非常に良かったと思うのですが、一方でこのことに触れない訳にはまいりません。 やはり北方領土問題原点の地である根室市の長谷川俊輔市長の参加が直前になって適わなかったことは非常に残念であったと思います。
これに対して根室市議会の皆さんが、6月28日に「北方四島における共同経済活動調査団に根室市長が参加できない事への抗議と北方領土隣接地域の確実な関与を求める決議」を議決されまして、今回の事態に対して抗議する意向を明確に示し、高橋知事も28日の記者会見で「大変残念だ。少なくとも理由を明らかにするべきだ」と、知事としても遺憾の意をおっしゃっております。
7月4日には辻副知事が上京されて、外務省の相木審議官に対してそのような申し入れを行っていると承知をいたしますが、申し入れの際、事の経緯や今後同様のことが起きないようにするための対応や取組などについてどのような説明があったのか、その説明に対して道はどのように認識しているのか伺います。
答弁:由川局長
根室市長の参加についてでございますが、参加を希望していた根室市長の現地調査の参加が直前になって適わなかったことにつきましては、道として大変残念なことと受け止めているところでございます。
このため一昨日、辻副知事から外務省欧州局審議官に申し入れを行ったところでございますが、外務省からは、市長の不参加につきましては、様々な調整の結果ということではありましたが、共同経済活動を進める上での市長の役割を認識しており、北方領土隣接地域、北海道の考えを踏まえながら進めてまいりたいと回答があったところでございます。
根室市長は北方領土問題の解決に向け重要な役割を果たされており、道といたしましては、今後とも、四島との交流の窓口を担ってきた隣接地域を中心に道内関係者の意向が国の取組に反映されますよう必要な働きかけを行ってまいります。
指摘:
ぜひとも根室市長、根室市議会をはじめ、根室の皆様の思いに道も寄り添って、今後同じようなことが起きないように、国に対する働きかけを強く行っていただきたいと思います。
6.質問:今後の対応について
共同経済活動は1990年代後半にも当時の日露政府間で提案がなされましたが、両国どちらの法的立場も害さない特別な枠組みの構築をめぐり、実際には実現に至らなかったという経過がございます。 今回も同じ流れを再び辿ることのないようにしながら、着実な実施へとつなげるためには、今後どのような取組が必要であるか、またそれに対して道はどのような関与をし、取組をしていく考えでいるのか伺います。
答弁:由川局長
今後の対応についてでございますが、共同経済活動の実現に向けましては、現地調査の結果などを踏まえ、日露両政府間の協議の中で、議論を深めていきますとともに、この取組の意義などを広く周知していく必要があると考えてございます。
道といたしましては、隣接地域の自治体や経済団体等の意見を伺いながら、9月の東方経済フォーラムの際に見込まれます、日露首脳会談に向けまして、道としての「優先的な取組となる活動」につきまして、国に提案いたしますとともに、共同経済活動に関するセミナーの開催などを通じ、共同経済活動を含む北方領土問題に対する地域住民やビジネス関係者などの関心を高めていくなど、必要な取組を進めてまいりたいと考えているところでございます。
北方四島交流事業等の実施について
国後島での日本語授業が中止された件について
7.質問:事態の経緯について
日本語教師の荷物が、現地で重量オーバーとして押収される事態が生じたと報道において伺っています。このことについて道はどのように認識しているか、また当該事態の詳細な経緯について、把握しているものがあればご説明願います。
答弁:山田課長
事態の経緯についてでございますが、本件事業の実施主体であります北方領土問題対策協会によりますと、6月15日に国後島に上陸した派遣者4名が四島側のいわゆる税関職員により個人の手荷物を除く日本語教材等をとりあげられたものとのことです。
こうした事態を受けまして、外務省がロシア側に対し事態の早期解決を働きかけるとともに、四島におけるロシアの管轄権を前提とした行為は日本の法的立場から遺憾である旨の申し入れを行ったものの、現地での日本語授業実施の目処が立たないとなりまして、6月26日、第3回自由訪問の船に便乗し根室に戻ったものと承知しております。
8.質問:国への申し入れについて
「いわゆる税関職員」とおっしゃいましたが、事実だけを見ればロシアの管轄権に服する事態が生じてしまったことは事実であると思います。これはビザなし交流の根幹を揺るがす事態でありまして、今回の事業は、北方領土問題対策協会が主催するものではありましたけれども、同じように事業を行っている道としても、とても看過できない事態だと考えます。この点に関しても、道は7月4日に辻副知事が外務省に申し入れを行っておりますが、その際に、外務省からはどのような説明があったのか、それに対して道はどのように認識しているのか伺います。
答弁:由川局長
国への申し入れについてでございますが、今回の事案は日本語講師の派遣にとどまらず、四島との往来に係る様々な取組におきましても留意すべきものと受け止めているところでございます。
このため、四島交流事業など、四島との往来の取組に係る円滑かつ確実な実施について、一昨日、辻副知事から外務省欧州局審議官に申し入れを行ったところ、外務省からは重く受け止め、ロシア側との交渉に鋭意努めて行く旨の回答があったところでございます。
道といたしましては、日本語講師派遣を含む四島交流は、日露間における相互理解を深め、双方の信頼関係の醸成に貢献する重要な事業でございますことから、今後ともその円滑かつ確実な実施が図られるよう国に求めてまいります。
「第8期北方領土隣接地域の振興及び住民の生活の安定に関する計画」について
9.質問:策定にあたっての道の認識について
第8期計画の対象期間となる来年度以降の5年間は、これまでの期間と比べて北方領土問題解決に向けて極めて重要な期間になると考えます。共同経済活動の具体像も徐々に見えてきたところであります。
新しい計画の持つ重みも過去の計画に比べ、より重要になると思うのですが、新計画策定にあたって道の基本的な認識を伺います。
答弁:中野本部長
隣接地域振興計画についてでございますが、隣接地域は、北方領土問題の解決に向けまして、引き続き、返還要求運動を牽引する全国の拠点として重要な役割を担いますとともに、日露両政府間で協議が進められている共同経済活動に関しましても、中心的な役割を果たすことが期待されているところでございます。
道といたしましては、来年度から始まる第8期振興計画につきましては、現行計画の検証・評価の結果とともに、隣接地域に求められる役割も踏まえながら検討していく必要があると考えており、このような視点に立って、地域の関係者と十分に意見交換を行いながら、より実効性の高い計画となるよう策定に取り組んでまいる所存でございます。
10.質問:新計画の内容について
「第8期計画の策定の考え方」の中で「第7期計画における各施策については、現在、検証・評価を取りまとめ中であるが、第8期計画においても、継続的な取組が必要」とご説明いただきました。今までの計画の内容の検証を行うことは当然でありますけれども、新たに生じている地域課題を新計画に盛り込むことも必要だと考えます。
個別計画で言えば、例えば私の地元の留萌でもそうですがJRの存続問題がここ1年、2年の間生じております。隣接地域ではJR花咲線が走っておりますが、存続の危機に立たされているものと承知をしております。こうした新たな地域課題についても可能な範囲で新計画に盛り込んでいく必要があると思いますが、領対本部として道の他の関係部署と連携をとりながら協議をする考えはありますでしょうか。
答弁:東田課長
地域課題への対応についてでありますが、現行の第7期振興計画の策定から4年以上が経過し、この間、隣接地域においても、JR北海道の事業範囲の見直しの議論や、ロシア200海里水域内のさけ・ます流し網漁業禁止による地域産業への影響など、様々な課題が生じているものと認識しております。
第8期振興計画の策定に当たりましては、こうした新たな課題も含め、隣接地域の振興に関わる各分野の課題も踏まえ、検討していく必要がありますことから、庁内関係部局との連携、協力のもと、計画の策定を進めてまいります。
11.質問:共同経済活動の位置付けについて
共同経済活動については、「第8期計画への位置づけなどの検討が必要」と資料の中で説明されております。官民現地調査団が派遣されました。これから本格的な制度設計に向けての作業が進められる時期になること、またこれが領土問題解決に向けての大きな契機としなくてはならないこと、道としても重要な一歩となり得ることを認識していることなどを踏まえれば、新計画に明記しないことにはまずならないと考えますが、道として新計画に共同経済活動を盛り込むことについての課題があると認識しているのか、認識していればどの様な点があるのか伺います。
答弁:由川局長
共同経済活動の計画への位置付けについてでございますが、共同経済活動に関しましては、先程報告いたしました現地調査の結果等を踏まえ、今後、優先して作業するプロジェクトの絞り込みなど、日露両政府間の協議の中で具体化に向けた議論が深められていくものと承知しているところでございます。
道といたしましては、こうした日露間の協議の進捗状況などを踏まえながら、隣接地域の振興の観点から、第8期振興計画における共同経済活動の位置付けなど、具体的な内容につきまして検討していく必要があるものと考えているところでございます。