20年以上の歴史を誇るビザなし交流ですが、通訳の方が現地で拘束されるという前代未聞のトラブルが起きました。
その詳細な経緯については政府は口を閉ざすのみですが、今後再発防止をどう図るのか、道の見解を質しました。
また新たに設置されたロシア経済協力分野担当大臣との今後の連携についても質しました。
平成28年北方領土対策特別委員会開催状況
開催年月日 平成28年9月7日(水)
質問者 北海道結志会 浅野 貴博 委員
答弁者 北方領土対策本部 参事
四島交流事業における通訳男性の拘束について
今回の男性通訳の方が国後島で留め置かれた件につきまして、以下、数点伺ってまいりたいと思います。
1.質問 : これまでの事例について
北方四島交流事業が始まり20年あまりになると思いますが、今回のように通訳を含む参加者が地元当局に拘束をされるという事態は過去に生じたことはなかったと思うのですが、確認を求めます。
答弁 : 東田参事
これまでの事例についてでありますが、1992年4月に相互訪問の枠組みにより北方四島との間で訪問事業が開始となってからこれまでの間、四島交流事業の団員が、四島側で事情聴取を受け、予定されていた日程で戻ることができなかったのは今回が初めての事例と承知しております。
2.質問 : 今回の事態について
四島交流事業は日露どちらの政府の管轄権も害することの無いという特殊な形の交流なんですが、そのような中でこのような事態が初めて生じてしまったことに対して、道としてどのような認識を持っていますでしょうか。
答弁 : 東田参事
今回の事態についてでありますが、菅官房長官が記者会見で発言されているとおり、道としても、わが国固有の領土である北方領土におけるロシア側の管轄権を前提とした行為は、我が国の法的立場から受け入れられるものではなく、極めて遺憾であると認識しております。
3.質問 : 事実関係について
今回の事態を巡り種々報道はなされているが、正確な事実関係は先ほど橋本委員の質問の答弁にありましたように外務省も政府も口を閉ざしている訳です。不思議なことに8月末以降新聞などで報じられることもないのですが、今回は北方領土対策協会主催の交流事業で起きた事態ではありますけれども、今後、道が主催する交流事業で同様の事態が起きることを防ぐとともに、万が一同じような事態が生じた時にどのような対応をするのがいいのかと、そうしたことを考える上でも、道として正確な事実関係を把握して、それを可能な範囲で道民に説明するその責任があると考えております。各報道によると、男性通訳とともに根室港に帰港した訪問団員の中からは、これは8月30日付けの朝日新聞が報じているのですが、一連の経緯に対する説明が不足していることに対して不満の声が上がったとされております。男性通訳は何が理由で他の訪問団員と一緒に根室港に帰港することができなかったのか、改めて事実関係を聞きたいと思います。
答弁 : 東田参事
事実関係についてでありますが、外務省に問い合わせたところ、通訳が、急遽現地当局による手荷物検査が行われた結果、事情聴取を受け、国後島にとどまる事態となり、その後、解放されたとのことでありましたが、その詳細については、説明を差し控えさせていただくとの回答でありました。
なお、先日実施された択捉島の自由訪問では、団員に対する手荷物検査は行われず、従来どおりの対応であったとのことであります。
4.質問 : 古釜布港でのトラブルについて
その後の自由訪問では手荷物検査は行われなかったということは、この男性通訳が個別に何か向こうの当局から狙われたということがあったのかなと思いますが、いずれにしても、日露首脳会談を控えた中、あまり波風を立てないようにしたいという、日露政府双方の思惑があったのは理解しなければいけないのかなと思います。もう一点伺いますが、第6回訪問団は、天候の悪化と古釜布でのトラブルにより、結局は国後島に訪問できなかったとのことであるが、トラブルとはエンジントラブルと聞いているが、上陸手続きを巡って最近さまざまなトラブルが起きております。どのようなトラブルだったのか、改めて説明を求めます。
答弁 : 東田参事
古釜布港でのトラブルについてでありますが、第6回訪問団は、天候の悪化から当初の計画を短縮して1泊2日の日程で国後島を訪問し、現地の高校生などと交流事業を行う予定でありましたが、古釜布港で、上陸船として利用している四島側の艀の電気系統の不具合により計器類が操作不能の状況にあり、目視に頼る航行では危険が伴い、万が一衝突事故などが発生した場合、団員の安全確保を図ることが難しいとの判断から、上陸を断念せざるを得なかったものであります。
5.質問 : 今後の対策について
今後、交流事業で通訳の方に限らず参加訪問団員の方が現地当局に止め置かれるような同じような事態が起きれば、折角、日露両首脳による会談が行われて今後弾みがついている中、水を差すようなことが起きないために、四島交流事業が円滑に実施されるよう、道としてどのような取組を今後していくのか説明をお願いします。
答弁 : 東田参事
今後の対策についてでありますが、北方四島交流事業は、いずれの一方の側の法的立場をも害するものとみなしてはならないという共通の理解のもと実施しているものであり、今回のような事態が生じないよう、既に各実施団体から、四島側で誤解を招くような資料などの持ち込みは自粛する。交流事業で北方四島を訪問した際には、中身の分からない品物などは受け取らない。などの注意事項を団員に呼びかけしており、道としても、四島交流事業の円滑な実施のためには、こうした注意喚起を行っていくことが必要と考えております。
6.質問 : ロシア語会話集の配布について
続きまして、これもさまざまな報道がなされておりましたロシア語会話集の配布について伺ってまいりたいと思います。9月2日、本年度最後の自由訪問団が根室港を出港して、択捉島に向かわれましたが、その訪問団員に対して、通常配布されているロシア語の会話集、北対協が作っているものでありますが、「四島交流会話集」が配布されなかったとされております。その理由については、9月3日付毎日新聞の記事によりますと「会話集には日本が返還を求めている北方領土の範囲を示す国境線が描かれていることから、無用なトラブルを避けたい」これは千島歯舞諸島居住者連盟のコメントとして載せられておりますが、「無用なトラブルを避けたいとして今回は配布を見送った」との記述があります。お聞きしますと8月26日、28日の日程で橋本委員と中野渡委員が参加された四島交流事業の際も、会話集の持ち込みは自粛するようにとの話しがあったと伺っておりますが、改めて今回会話集の配布がなされなかった理由について、道が説明を受け、把握していることを明らかにしていただきたいと思います。
答弁 : 東田参事
ロシア語会話集の配布についてでありますが、実施団体である千島連盟に確認したところ、今回の択捉島への自由訪問に際し、北方四島の地図が記載されている資料などの島内への持ち込みについては、四島側との無用なトラブルを避けるため、自粛するよう団員に要請したとのことであります。
7.質問 : 道の認識について
無用なトラブルを避けるため自粛するようにとのことでしたが、こうした判断を千島連盟がされたことに対して、道としてはどのように認識をしていますか。
答弁 : 東田参事
道の認識についてでありますが、この度の千島連盟の対応については、日本人通訳が手荷物検査で事情聴取を受けた直後の訪問であり、過去に他の訪問の際に地図の標記をめぐって、ロシア側が問題視したこともあったことから、外務省とも相談し無用のトラブルを避けるために判断したものと考えております。
8.質問 : 今後の対応について
現在、我々日本人が北方四島に入域できる手段としては、千島連盟が実施する自由訪問と北方墓参、そして北方四島交流北海道推進委員会並びに北方領土対策協会が実施する四島交流の三つのみとなっております。四島交流事業の目的が、北方領土問題が解決されない中で日本人と四島に居住するロシア人との交流を進め、相互理解を深めることであることに鑑みれば、交流の基礎をなすのは何を置いても言語コミュニケーションですからそれを助ける会話集は非常に重要なものであると考えるが、今後四島交流事業、特に道推進委員会が実施する事業の中で、今回と同様に会話集の配布がなされないことは起こり得るのか、起こり得るとしたら、それはどのような理由に基づくものであるのか、道の見解を示されたい。
答弁 : 東田参事
今後の対策についてでありますが、実施団体である道推進委員会に確認したところ、8月26日からの第6回及び7回訪問事業につきましては、千島連盟と同様な理由で、事前研修会において会話集の持ち込みを自粛するよう団員に要請したとのことであります。
道推進委員会においては、ロシア語会話のプリントを代わりに配布するなど当面必要な対策をとっておりますが、今後については、会話集を作成している北対協などと協議してまいりたいと考えております。
意見 :
私自身ビザなしに参加させていただいた平成23年24年の頃はこの会話集を持って行ってホームビジットの場に行ったとしても何も問題視されることはなくて、四島側の対応が最近厳しくなってきたことの表れの一つかなと思いますが、会話集そのものを持って行くのが重要というよりは、言語コミュニュケーションを助けるためのツールをしっかり団員の皆さんが持って行けることが大事だと思いますので、北対協とも協議してまいるとの答弁をいただきましたので、適切な形での対応を今後ともお願いしたいと思います。
「新しいアプローチ」を踏まえた道の取組について
5月6日のロシアのソチで行われた日露首脳会談で示された「新しいアプローチ」という文言ですが、一つ、まず確認をさせていただきたいと思います。
9.質問 : 新しいアプローチについて
9月1日付け、毎日新聞だけだったのですが、日本政府が北方領土に住むロシア人の居住権の容認を前提として、今後ロシア側との協議に入る意向を固めたとされています。これが事実ならば、まさに「新しいアプローチ」の一環とも考えられると思いますが、このような新しい流れに対する道の見解を伺います。
答弁 : 東田参事
ロシア人の居住権容認についてでありますが、報道直後に外務省に確認したところ「そのような事実はない」との回答であり、また、9月2日ロシアのウラジオストクで開催された日露首脳会談後に外務省から発表された資料においても、ロシア人居住権に関する記載はなく、道の見解をお示しすることはできないところであります。
10.質問 : 今後の取組について
そのような事実はないということは、毎日新聞がちょっと先走って書いてしまったのか、まったくの誤報なのかわかりませんが、政府がそのような事実はないと否定している以上、それに基づいて、今後、道はどのような対応を取るかという質問は成り立たないかと思うのですが、今後政府が「新しいアプローチ」に基づいて交渉を進めていく上で、従来なかった新たな流れが出てくることは、今後十分考えられることだと思います。仮に、居住権容認という話が実際に出てきたとしたら、さまざまな行政手続を担当する道としても、いろいろなことを考えてやっていかなければならないと思います。
このことについて、今後、道は政府とどのような形で協議し、連携をしていくのか、現時点での考えをお示しいただきたいと思います。
答弁 : 東田参事
今後の取組についてでありますが、ロシア人居住権については、今回の首脳会談の概要では触れられておらず、現時点での考えをお示しすることはできませんが、今後も日露政府間交渉を注視してまいりたいと考えております。
意見 :
今後、日露両政府でどのような「新しいアプローチ」に基づく新しいそれぞれの提案が出てくるかもわかりませんので、申すまでもありませんが、従前以上に領対本部におかれては、情報の収集に努められて、世論喚起に活かしていけるような体制を取っていただきたいと思います。
11.質問 : 各振興局での取組について
続きまして、8月26日に行われた北方領土返還要求北海道・東北国民大会について伺います。
昨年はこの大会に併せて、各振興局において街頭行進などの行動が取られたと思います。私の地元の留萌管内でも、留萌振興局の皆さんが中心となって、おそらく初めてだと思うのですが、留萌市内で街頭行進を行いました。
本年は各振興局でそのような行動は取られなかったと思うのですが、その理由につき、説明をお願いします。
答弁 : 東田参事
振興局での取組についてでありますが、昨年は、70年の節目の年であったことから、北海道・東北国民大会を開催した8月28日に各振興局で街頭啓発や行進を行ったところであります。
今年の強調月間においては、それぞれの振興局が街頭啓発や北方領土コーナーの設置、北方領土展の開催などに取り組んだほか、特に8月22日から国民大会開催の26日までを一斉行動期間とし、映画「ジョバンニの島」の主題歌の庁内放送を全振興局で実施したほか、大型ショッピングセンターなどでの署名活動や地域のゆるキャラとともに行った街頭啓発、無料電車「北方領土返還号」の運行など、振興局ごとに工夫を凝らしながら、啓発活動に取り組んだところであります。
意見 :
本年の8月26日前後というのは、台風被害が起きたところでして、各振興局、特に被害の大きかった地域においては、その対応に追われて大変時間的にも厳しかったと思うのですが、街頭行進というのはあくまで一つの啓発手段ではございますけれども、多くの皆さんの目について、北方領土問題を忘れてはいけないと強く注意喚起をする、意識を高めていただく一つの有効な手段だと思いますので、70年の節目と言わず、この問題が次の80年の節目を待つ問題でもありませんし、毎年毎年が勝負でございますので、ぜひ多くの住民の方々に、明らかに見える一つの方法として有効な手段だと思いますので、毎年こうした行動を領土問題が解決なされるまで、一日も早くなされるためにも行っていただくことを検討していただきたいと思います。
12.質問 : 北方領土返還要求北海道・東北国民大会について
国民大会では、従前と変わらず北方領土の四島一括返還を政府に求める旨の決議がなされました。先ほど、橋本委員からも中司委員からも9月2日の日露首脳会談、それを受けた新しい流れについてのお話がありましたけれども、両政府の交渉が新たな局面を迎える中、国内世論の喚起を図る上で重要な役割を担う道として、従前と変わらない「四島一括返還」という方法を訴える、そして大会自体も、中司委員がおっしゃったように、大会を行うことが目的と取られかねないような、失礼な言い方かもしれませんが、マンネリ化したような内容になってしまっている。これについて、道としても同じことをずっと続けていくのではなく、更なる世論喚起に向けた道自身の「新たなアプローチ」といいますか、そうした取組が求められると思うのですが、道の見解を伺います。
答弁 : 東田参事
北海道・東北国民大会についてでありますが、本大会は、国民が一丸となって、より一層強力な返還要求運動が展開されるよう、道や東北6県、千島連盟、北方同盟など北海道・東北の関係者が一堂に会し、返還要求運動に取り組む決意を発信するため開催しているものであり、道としても、さらなる発信に努め、世論喚起を図ってまいります。
意見 :
道としての「新たなアプローチ」ということで言えば、世論喚起に向けて、今年から各議会議長や市町村長が参加されるなど、新しい取組をなされていることは承知しております。そうしたことも踏まえて、例えばより発進力の強い著名人の方にビザなしの参加をお願いするとか、こうした大会にお招きいただくだとか、大臣、副大臣、そうした方々に出席を求めることは当然ですけれども、ぜひとも新しい、より世論に訴えるような方法というものを不断に検討していただきたいとお願いしたいと思います。
「ロシア経済分野協力担当大臣」の設置について
9月1日、政府は新しく「ロシア経済分野協力担当大臣」を設置して、世耕経済産業大臣がそれを兼務することを明らかにしています。
13.質問 : 大臣ポストの新設について
このような大臣ポストが設置されることは過去に例がなかったのではないかと思います。特定の国家に関し特定の政策分野を担当する大臣が設置されるという、これは政府として経済面でのロシアとの協力を深めて、それによって領土問題の解決を図るのだという強い意欲の表れであると私は考えるのですが、今回の大臣ポスト新設に対する道の見解をまずお示しください。
答弁 : 東田参事
大臣ポストの新設についてでありますが、日露間の経済交流を担当する大臣が新たに設けられ、内閣官房副長官時代から日露平和条約締結交渉にご尽力されてきた世耕経済産業大臣が兼務されたことは、両国の経済協力を積極的に進めていくという政府の強い姿勢をロシアに向けて発信するものであり、道としては、日露間の経済交流の推進により、領土交渉が加速化されることを期待しております。
14.質問 : ロシアとの経済協力について
道としても既に、ロシア、特にサハリン州と様々な分野で経済協力を進めてきているところであると承知します。今後、道として新大臣とどう連携し、道が行っているロシアとの経済協力などに弾みをつけていくのか、その辺のところを伺います。
答弁 : 東田参事
ロシアとの経済協力についてでありますが、道では、総合政策部の国際局が中心となって、ロシア極東地域との経済交流などに取り組んでいるところであり、政府の8項目の経済協力プランに相通じる道の5つの協力パッケージを推進力として、今後、新大臣と連携しながら幅広い交流の加速化に取り組んでいくことが重要であると考えております。
意見 :
まさに、そうした不安の声に対して、そんなことはないのだと払しょくしていくのが道の役割だと思いますので、しっかりお願いしたいと思います。
15.質問 : 今後の取組について
最後に伺います。領土問題解決に向けた世論喚起、重ねて申しますが、これは道が担う重要な役割です。今、指摘したような不安を抱いている方々の思いを払しょくして、今回の新しい大臣の設置を北方領土問題解決に向けた世論喚起に大きく活かしていく上で、道としては今後どのような取組を考えているのか最後に伺って質問を終わります。
答弁 : 篠原局長
今後の取組についてでございますが、この度の日露首脳会談に続き、11月にはペルーで、さらに12月には日本の山口県でそれぞれ首脳会談が開催されることで合意されております。
道といたしましては、こうした政府の外交交渉を後押しするため、さらに世論喚起に努めるとともに、今回設置されたロシア経済分野協力担当大臣とも十分に連携し、本道の優位性を活かしたロシアとの経済協力の促進を図り、北方領土問題の早期解決に向けた環境整備に繋げていくことが重要と考えております。